個性派銭湯セレクション その七 品川区_東京浴場
2010年 04月 01日
ちょっと不思議で、わくわくする空間。昔ながらの銭湯を訪ねると、そんな魅力のある空間に出会う事がある。男女をしきる壁の代わりに中庭が配置されている銭湯・東京浴場は、とても印象的な空間タイプだと思う。基本は浴室の奥に浴槽が配置された、天井が高い関東型銭湯で、その珍しい変形バージョン。都内にはこの空間タイプの銭湯は、本誌97号で紹介させていただいたおとめ湯と、ここだけだ。
この庭が造られた昭和30年代は銭湯の隆盛期であり、オーナーは競って普請にお金をかけ、他店との差別化をはかっていた。ここ東京浴場の先代は、鯉の養殖が盛んな新潟は小千谷の出身で、鯉が映えるような庭がある銭湯造りを指向したという。男女脱衣室の外側にも立派な庭が残されており、先代の意図が現在まで大切に引き継がれていることがうかがえる。
現代では、なかなかこのような「いい意味での無駄」な空間は設計しにくい。「そこは金を生み出す場所なのか?」というところに極端に価値観の比重が置かれてしまっているからだ。庭と縁側があった場所が、いつしかコインランドリーに取って替わってしまったのが現代の現実だ。
価値観は時代によって変化する。「緑」の大切さが切実に語られ始められた今「銭湯の中庭」は都会の生活者にとって、ひと時の豊かな時間をもたらす貴重な遺産と言えるかもしれない。
【DATA】とうきょうよくじょう
住所:品川区大井2-22-16
電話:03-3771-4959
営業時間:15:00~23:30
休業日:月曜日
交通:京急東北線[大井町駅]より徒歩7分
東京銭湯お遍路マップ:33ページ品川区33番
日中の中庭は、明るい自然光を浴室にもたらす。カラン前の黒い部分はガラス張りで、池の中をのぞく事ができる。
脱衣室側にも立派な庭があり、池には鯉が泳ぐ。
浴室略平面図。男女浴室の中央に中庭が配置されている。