カテゴリ:★1010/個性派銭湯セレクション( 15 )

★日本一大きな富士山ペンキ絵のある銭湯★(1010誌 114号掲載バックナンバー)

 古き良き関東型銭湯の特徴のひとつとして「浴槽の背景に富士山ペンキ絵が描かれている」という点があげられる。浴槽にはられたお湯から連続するように、湖や海の背景にそびえる富士山が描かれていることが多く、このスタイルはペンキ絵のことを「背景画」と呼ぶゆえんともなっている。 
 今回取材した文京区、鶴の湯もこの点は同じで、浴槽背景の男女壁それぞれに富士山が描かれている。今は亡き早川ペンキ絵師の作品だ。
 ところが2011年末、既存の二つの富士山に加えてもう一つの富士山が鶴の湯の浴室に描かれた。三つ目の富士山の登場だ。新たな富士山が描かれた場所は、浴槽が配置する側と反対側の壁。発案は鶴の湯をきりもりする三代目女将の中島さん。「お客さんが大きな浴槽につかりながら富士山を眺めたら、ゆったりとした気分になってもらえるだろうな、と思って」というのがその理由。
 創業90年という老舗銭湯を切り盛りする中島さんは「昔ながらの銭湯」にこだわり、少しずつ改修を重ねて鶴の湯を維持している。一時はフロント化の計画もあったが、父の意見に反対し、あえて番台形式を継続した経緯がある。三つ目に描かれた富士山ペンキ絵は、私の知る限り銭湯では日本で一番大きなものとなった。また、浴槽の反対側の壁に描かれた富士山は都内でも二カ所しかない。古き良き銭湯。しかし個性派。これは「昔ながらの銭湯を守りたい」という中島さんの思いが、攻めの姿勢で表現された空間なのかもしれない。

【DATA】つるのゆ
住所:文京区千駄木5-32-2
電話:03-3821-2514
営業時間:16:00~24:00
休業日:土曜日
交通:東京メトロ南北線[本駒込駅]より徒歩7分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:14ページ14番

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浴槽から眺める富士山は何とも雄大。中島盛夫ペンキ絵師により描かれ、クラッシックなのに斬新な空間となった(図中壁3の位置)


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壁2(男湯)に描かれた富士山(早川ペンキ絵師による)


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壁1(女湯)に描かれた富士山(早川ペンキ絵師による)


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鶴の湯の略平面図
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by space88 | 2012-10-17 11:16 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★ビルイン型の伝統的銭湯!?★(1010誌 112号掲載バックナンバー)

「昔ながらの銭湯の間取りと造り」をそのままビルインさせた銭湯。鶴の湯を端的に表現するとそういう事になる。外観から見るとビルの下階が銭湯になっているだけなのだが、店内に入ると(高窓形式ではない事以外は)昔ながらの木造銭湯そのままの造りが色濃く残る銭湯だ。
 現在のビルは昭和52年竣工だから、築34年を経過したという事になるが、それ以上の風格と歴史的雰囲気を感じてしまうのはなぜなのか?オーナーの川端弥太郎さんにお話をうかがい、その訳を知る事になった。
 鶴の湯の内装では床材や、番台、化粧梁材、化粧柱材、建具など、そこかしこに高い品質の木材がふんだんに使われている。実はこれら現在の内装に使用されている木材のほとんどが、建て替え前の木造銭湯で使用されていた木材の再生利用品なのだ。前代の木造銭湯は関東大震災(昭和10年)後に建てられているので、これら再生利用の内装材は、おおよそ75年の時を刻んでいる計算となる。ビル銭湯なのに、不思議な風情と味わいがあるのはそういう訳かと納得。感動と感慨を覚えるオーナーからのお話であった。
 銭湯の文化とは、生活の中で使われながら育まれる「生活文化」であり、その様態は時代によって変化し続けていく。いわば現在進行形の文化であり、その意味で鶴の湯は時代に同調しながら「銭湯の歴史」を伝えていきた、生きた美術館といえるかもしれない。伝統的銭湯を後世に残していく一つの方法論がここにある。

【DATA】つるのゆ
住所:台東区東上野5-22-7
電話:03-3845-0268
営業時間:15:00~24:30
休業日:月曜日
交通:東京メトロ銀座線[稲荷町駅]より徒歩5分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:19ページ32番

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内装材として木がふんだんに使用されている。30年以上前に建築素材の再生利用というコンセプトで店造りをしていたということに、オーナーの先見性を感じる。


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番台の歴史は内装材の中でも一番古い。昭和3年に造られたというから、83年もの間使われ続けられている。番台に座る女将さんがいつも着物姿というのも鶴の湯の魅力のひとつ。


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外観の様子。半階分の階段を上がり、のれんをくぐる。のれんから先は昔ながらの銭湯の間取りとなる。


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ふんだんに木素材が使われている脱衣室。ただ古いだけでなく、手入れもきちんと行き届いる現役感。木の桶も嬉しい。
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by space88 | 2012-01-21 11:06 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★配置が超個性的!吹抜け露天岩風呂のある銭湯★(1010誌 110号掲載バックナンバー)

 大きな岩風呂の露天風呂でゆっくりと湯を楽しむ。風呂好きで日々忙しい都会の人間にとって贅沢な癒しのイメージであるが、のぼり湯では日常的にこれが楽しめる。まさに「遠くの温泉より近くの銭湯」と言いたくなる空間だ。
 露天岩風呂が銭湯にあること自体は、それほど珍しいことではない。しかしのぼり湯が特徴的なのは、露天風呂の配置と置かれた岩の大きさにある。通常木造銭湯において、露天風呂はメインとなる浴室母屋の両サイドに配置されるケースがほとんどだが、のぼり湯は、母屋の中央に露天風呂が位置している。なぜこんな位置に露天風呂があるのか?銭湯建築設計者としてはとても気になるのだが、その理由は中普請の経緯にあった。
 昭和42年に創業したのぼり湯は、外観としては通常の関東型木造銭湯であった。しかし浴室の中央にどーんと岩が積み重ねられており、これが当時からお店の売りとなっていた。当初岩風呂はあくまで内風呂の空間であったが、平成20年の中普請時に岩の配置をそのままに改修することになった。木造中央部分の大屋根が大胆に取り払われることで、岩の内風呂が「吹抜け露天岩風呂」として生まれ変わったというわけである(図面参照)。
 時代はエコ。モノの再利用がうたわれる今日この頃。これだけの巨石を銭湯建築用材として使える時代は当分来ないであろう。なんとも贅沢な資材が再利用された銭湯である。

【DATA】のぼりゆ
住所:三鷹市井口5-5-18
電話:0422-31-7645
営業時間:16:00~23:00
休業日:水曜日
交通:JR中央線[武蔵境駅]よりバス[井口新田]下車、徒歩3分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:117ページ3番

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創業時は屋内の岩風呂空間として、この空間に屋根がかけられていた。以前は男女の仕切り壁も岩だけで構成されていたというから驚く。


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屋内の浴室空間。右手が露天風呂に通じる扉。


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図面:左手が改修前のレイアウト。
右手が現況のレイアウト。黄色いエリアが屋外空間となった。
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by space88 | 2012-01-21 10:53 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★「×2」以上!の空間をもつ銭湯★(1010誌 109号掲載バックナンバー)

 なんと創業は都内最古の1773年。あけぼの湯の空間的特徴は、浴室空間が「二階建て」
になっていること。部分的ではなく、完全に二層分がサービス空間として提供されている銭湯は珍しい。浴槽メニューは水風呂を含めて12種類。しかもお湯は天然温泉!
 そのバラエティーに富む空間構成は、まず1階にエントランス/ロビ−/食事処/脱衣室/洗い場、そして露天風呂が配置されている。ここだけでも完全に通常の銭湯として完結できるのだが、これに加えてさらにもうワンセット、浴槽と洗い場が2階にも配置されており、他に二種類のサウナ、水風呂、そして写真の岩盤泉がある。上下階は内階段でつながれており、浴槽の湯量、カランの数、営業面積…いずれをとっても通常の二倍分、いやそれ以上の空間を誇る銭湯となっている。
 このような巨大銭湯となったのは、実は平成8年の改修時。もともと銭湯は二階だけの営業で、一階はテナントとして運営されていた。その後一階は空きテナントとなってしまったのだが「であれば一階も銭湯として営業面積を拡大してしまおう」となった。現在で19代目となる、伝統家業経営者の英断である。結果として近隣のスーパー銭湯や健康ランドにも負けない銭湯になった。土曜日曜は14台の無料駐車場が満車。パートさんに車の整理員をお願いしているという。いやはや、どこを切っても大きなスケールの銭湯だ。 

【DATA】あけぼのゆ
住所:江戸川区船堀3-12-11
電話:03-3680-5611
営業時間:15:30~24:00(日曜・祝日 14:00~24:00)
休業日:木曜日
交通:都営新宿線[船堀駅]より徒歩5分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:108ページ55番

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岩盤泉浴槽は2階に。もとは脱衣室として使用されていた空間。浴槽内にはさまざまな鉱石が粉末状にされて練り込まれたタイルが貼られている。


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2階の浴室空間は、オーソドックスな銭湯スタイル。


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1階の浴室空間には、個性的な浴槽が配置されている。


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by space88 | 2012-01-21 10:44 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★狭小空地を生かした、奥行きのある庭空間★(1010誌 108号掲載バックナンバー)

 大黒湯やタカラ湯をはじめとして、クラッシックな名銭湯が多い足立区エリア。五反野駅から徒歩5分ほどに立地している曙湯も、昭和32年築以来3回の中普請を経てなお木造銭湯の良さを現在に引き継ぐクラッシックな外観の銭湯だ。
 曙湯で着目したいのは、男側の浴室脇にある屋外空間。この空間には滝から池、岩の露天風呂、そして四阿(あずまや)風の休憩所までが一連の空間として配置されている。天然石の配置や、樹皮貼り仕上の壁、絶妙な植栽配置により実に良い雰囲気を生みだしている。昔ながらの職人さんのセンスと技に加え、時間の積み重ねと行き届いた管理が光る庭である。現代建築において、建物脇のほんのちょっとした空間をこれだけ充実感のあるものにしている例は、そうそうない。
 しかしこの空間を「古き良きもの」として片づけてしまってはもったいない。わずか幅約1m×奥行き3mほどの広さしかない庭に、実際以上の深い奥行きを感じるのはなぜか?ポイントは落差約3mの滝石と作庭要素の連続配置にある。まず滝を導く超縦長の自然石が背景となって視線が上方に広がる効果を生み出している。加えて滝石と浴槽の間には幾層にも形の異なる植栽や木々、灯籠や石橋などが重ねて配置されており、これが遠近感や奥行き感をもたらしている。さらに入浴者の視線(空間感覚)は、手前の岩浴槽、そして背後の休憩所へとつながっていく。
 街中の銭湯は、他業種の温浴施設に比べ、どうしても敷地の広さでかなわない。しかし、狭いながら銭湯にもできることもあるのではないだろうか?曙湯の屋外空間を見ていると、建物脇のほんのちょっとした狭小空間が、プラスαの有効な空間サービスを生み出す隠れたツボのように思えてくる。

【DATA】あけぼのゆ
住所:足立区足立4-22-3
電話:03-3886-0706
営業時間:15:00~24:00
休業日:木曜日
交通:東武伊勢崎線[五反野駅]より徒歩5分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:90ページ3番

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男側の露天岩風呂から庭を見る。正面のシダ類の影に超巨大な滝石がある。滝の落差は約3m。いくつもの作庭要素が池の横で重なり、空間に奥行きが生みだされている。

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男性側の休憩スペースから岩風呂越しに庭を見る。自然の形を生かした素材使いが粋だ。

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女側にも露天風呂がある。滝や池は無いが、品良くしつらえられた庭がワイルドな岩風呂にマッチして、風情ある雰囲気を醸し出している。
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by space88 | 2011-06-10 09:37 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★ゴージャスな銭湯★(1010誌 107号掲載バックナンバー)

 銭湯には、良くも悪くも機能性や合理性から、空間の各部位に標準的な納まりや寸法がある。しかしその「標準」が当てはまらないのが、松乃湯の空間だ。
 まず目に付くのが洗い場の蛇口と蛇口の間隔。昔ながらの寺社造りの木造銭湯などでは65センチ。現代的に改修する場合、75センチというのが一般的な寸法で、多くの銭湯ではこの寸法が採用されている。ところが松乃湯では1メートルもの間隔が設定されている。これはスーパー銭湯なみのゴージャススケールといえる。
 さらにゴージャスと言えば、浴室の中央に配置された吹抜け空間が特徴的。ステンドグラスを用いた窓がある半屋内空間には、3種類もの浴槽が配置されている。これもスーパー銭湯クラスの設備で、銭湯の標準を大きく超えているといえる。
 その他、床を冷たく感じさせないために、洗い場の床中央に常時湯が流れるように配管がされた設備も通常では見られない設備だし、浴槽の笠木(浴槽縁の最上部)が水平ではなく、斜めに施工されているもの珍しい。店の入口においては屋号がどこにも見当たらず、代わりに巨大な招き猫がお客さんを招き入れている。まるで銭湯の既存イメージに挑戦しているかのようだ。
 オーナーさんにお店づくりの方法論を聞けば、ズバリ「銭湯らしく無い銭湯のイメージを自身で考え、設計士に伝えた」とのお答え。合理性や経済性を考えると、なかなか思い切った普請が難しいのが銭湯空間であるが、松乃湯のあり方はそれとらわれない経営発想を示している例と言えるかもしれない。今年10月には新たに炭酸泉が半露天部の浴槽に導入された。松の湯の進化は続く。

【DATA】まつのゆ
住所:練馬区石神井台7-11-1
営業時間:14:00~21:00(受付時間20:30まで、入浴時間21:00まで)
休業日:月・火曜日(臨時休業あり)
交通:西武新宿線[武蔵関駅]より徒歩5分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:89ページ30番

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浴室中央に半屋外露天スペースが見える。オーナーの意向によりガラス張りとなった。

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半屋外吹抜けエリア。浴槽縁の最上部は斜めに施工されている。
写真奥は、炭酸泉に改修されたばかりの浴槽。

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略平面図
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by SPACE88 | 2011-02-23 09:37 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★木の浴槽がある銭湯★(1010誌 106号掲載バックナンバー)

 ありそうで、なかなか無いもの…銭湯空間における木の浴槽は、そんな存在なのかもしれない。実際、木の浴槽を使用している銭湯は都内に数軒しか無い。ハードな使用環境が前定とされる公衆浴場の性格上、木の浴槽がどのようにメンテナンスされているのか?興味津々で品川区、富士見湯を訪ねてみた。
 富士見湯の浴槽で使用されている木は、古代檜という素材だ。古代檜とは台湾産のタイワンベニヒおよびタイワンヒノキを指し、標高2000〜2700mに自生、樹齢千〜三千年を数える非常に貴重な巨木だ。また天然ヒノキチオールが多量に含まれる精油のはたらきにより、耐水性や耐久性に富むとされている。
 さてその古代檜のメンテナンスや如何に。「タイルの浴槽より簡単かもしれません」若旦那、渡部さんの言葉は、肩すかしを食らうほどあっさりしたものだった。「現在の浴槽は改築した平成8年から14年間使い続けている物です。タイルのメンテナンスと違う点は週に一回専用のリンスを全体にすることと、3〜4年に一度表面の木を削ることぐらいでしょうか」とのお話。毎日の掃除はナイロンフレッサーで、ゴシゴシこするのだという。
 実際に古代檜浴槽の状況を観察すると、日光照射で若干の苔が発生した跡が見られる(これは避けられない)ものの、不潔感を感じさせるほどではなく、とても15年近く水にさらされ続けている木とは思えない耐久性を示している。
きちんと掃除されたその他のタイル面や浴槽などを見ていると、毎日丁寧に木の浴槽を掃除している渡部さんの姿が目に浮かんできた。「掃除が簡単」と言えるのは、渡部さんの浴槽への愛着の故かもしれない。

【DATA】ふじみゆ
住所:品川区東中延1-3-8
電話:03-3782-6120
営業時間:15:15~23:45
休業日:月曜日
交通:東急池上線[荏原原中延駅]より徒歩3分
東京銭湯お遍路マップ:31ページ品川区9番

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空間の中央に配置された木の浴槽。その他部位の意匠にも個性が感じられる。

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タイルの浴槽には北投石が常時設置されている(円筒形のケース部)。「通常のお湯とは全く体感が違う」とお客さんに非常に評判が高く、導入後は利用者がかなり増えた。玉川温泉産の貴重な石という事で「是非一度お試しいただきたい」富士見湯のもう一つの個性。
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by space88 | 2010-12-02 18:40 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★太陽光利用のエコ銭湯★(1010誌 105号掲載バックナンバー)

 「エコ」という言葉がまだ世間に全く認知されていなかった1980年、本気でエネルギー削減について取り組みをはじめた銭湯があった。江東区の稲荷湯である。同湯が採用しているのは、太陽熱温水器パネルによる水の循環加温システムだ。
 太陽熱温水器とは、簡単に言えば、太陽の輻射熱がガラス管の中に通された銅製チユーブに循環する水を温めるというもの。太陽熱のエネルギー変換効率は40%。シンプルなシステムながら、今流行の太陽光発電の3〜4倍近い効率の高さを誇る。実際には足りない熱量をガス燃料で補ってはいるが、それでもガス使用量は通常銭湯の1/2程度だという。
 それにしても、なぜ1980年当時にこれだけの設備投資を決断するに至ったのだろうか?稲荷湯三代目の寛信さんにお話をうかがった。「これを建てたのは、私の祖父にあたる次左衛門です。戦後の薪集めやオイルショックなどの苦労の経験から、安く安定した燃料は何かということを早くから模索していたようです。ただ、建設当時は話題にものぼりませんでした」とのお話。しかしこの太陽熱温水器により燃料使用量を削減しただけでなく、その後も重油からガスへの転換などに一早くとりくんだことが評価され、2007年に江戸川区とえどがわエコセンターが進める『もったいない運動えどがわ』で最高賞の「もったいない大賞」を受賞するに至る。築後27年を経てはじめて社会的に評価されたかっこうとなった。
 近年、太陽光発電(光を直接電力に変換するが、発電電力量当たりのコストが他の発電方法に比べて2〜3倍と割高)や風力発電に偏りがちだった自然エネルギー利用の分野でも、太陽「熱」エネルギーの利用を模索し始めているという。稲荷湯が1980年に始めたことに、ようやく世の中が追いついて来たのかもしれない。

【DATA】いなりゆ
住所:江戸川区平井2-9-3
電話:03-3685-0126
営業時間:15:00~23:30
休業日:火曜日
交通:JR総武線[平井駅]より徒歩8分
東京銭湯お遍路マップ:102ページ江戸川区8番

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屋上に設置された太陽熱温水パネル。76ユニットのパネルが並ぶ様は壮観だ。

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太陽熱温水パネルの接近写真。10本のガラス管が1ユニットとなっている。

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1階の浴室写真

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ガラス管内部の断面図:銅製チューブの内側に水が循環し、太陽の輻射熱で暖められる。ガラス管と銅製チューブの間は真空となっており、一度温められた熱が外に逃げない仕組み(魔法ビンの原理)になっている。
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by space88 | 2010-11-01 18:17 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★続・プールがある銭湯★(1010誌 104号掲載バックナンバー)

 「温泉銭湯」の先がけとして都内では知名度の高い、そしがや温泉21。温泉以外のお湯も全てが軟水利用、冷凍サウナやミストサウナの設置、そして無料備品(ボディソープとシャンプー)の提供等、サービスの多様性は都内銭湯の中でも有数の内容を誇る。
 同店の空間イメージを特徴づけているのは、男女の堺に設置されたミニプールの空間だ。写真で見られるように、上部は3層分の吹抜けになっており、昼間はガラス張りの天井から明るい光が降り注ぐ。ここはサウナ利用者(別料金)の限定エリアとなっているが、浴室への採光と換気のための媒介空間としても機能している。
 それにしてもこの空間が25年前に建設されたということには驚かされる。25年前に今のスーパー銭湯に匹敵するかのような空間を具現化しているという事実もさることながら、その経過年数を感じさせない行き届いた施設管理、清掃状況が素晴らしい。
 現在この店を切り盛りするのは、2第目の若社長。何よりも湯質の追求にこだわっているとのことで、ミニプールは「さらなるリクリエーション空間の提供」として位置づけられている。お話をうかがう中では「お客さんに払っていただいた金額よりも大きなものを返したい」という言葉が何度も聞かれ、顧客サービスに対する熱い思いが伝わってきた。
 同店の最寄り駅となる祖師ケ谷大蔵駅は近年になり、地元に円谷プロダクションの旧本社があることからウルトラマンをイメージキャラクターの中心に据え、安全安心で賑わいのある街づくりを目指している。25年前に次世紀銭湯のあり方を予見して、文字通り具現化したそしがや温泉21。付帯施設の充実度のみならず、その運営管理体制、経営思想を含め、全てにおいて「ウルトラ」な銭湯だといえる。

【DATA】そしがやおんせん21
住所:世田谷区祖師谷3-36-21
電話:03-3483-2611
営業時間:14:00~26:00(入浴券購入は25:30終了)
休業日:無休(元旦のみ休業)
交通:小田急線[祖師ケ谷大蔵駅]より徒歩5分
東京銭湯お遍路マップ:49ページ世田谷区35番

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男女対称に配置されているミニプール空間。この空間を介して一般浴室(写真左側)への採光と換気が確保される。

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ミニプールエリアには、薬湯のジャグジー浴槽も付帯している。

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図:施設全体の略レイアウト図。中央のミニプール空間を中心に、様々なサービスアイテムが全体へと展開する。
1-冷凍サウナ_2-ミストサウナ_3-水風呂_
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by space88 | 2010-06-11 16:31 | ★1010/個性派銭湯セレクション
★続・浴室に面する中庭がある銭湯★(1010誌 103号掲載バックナンバー)

 ちょっと不思議で、わくわくする空間。昔ながらの銭湯を訪ねると、そんな魅力のある空間に出会う事がある。男女をしきる壁の代わりに中庭が配置されている銭湯・東京浴場は、とても印象的な空間タイプだと思う。基本は浴室の奥に浴槽が配置された、天井が高い関東型銭湯で、その珍しい変形バージョン。都内にはこの空間タイプの銭湯は、本誌97号で紹介させていただいたおとめ湯と、ここだけだ。
 この庭が造られた昭和30年代は銭湯の隆盛期であり、オーナーは競って普請にお金をかけ、他店との差別化をはかっていた。ここ東京浴場の先代は、鯉の養殖が盛んな新潟は小千谷の出身で、鯉が映えるような庭がある銭湯造りを指向したという。男女脱衣室の外側にも立派な庭が残されており、先代の意図が現在まで大切に引き継がれていることがうかがえる。
 現代では、なかなかこのような「いい意味での無駄」な空間は設計しにくい。「そこは金を生み出す場所なのか?」というところに極端に価値観の比重が置かれてしまっているからだ。庭と縁側があった場所が、いつしかコインランドリーに取って替わってしまったのが現代の現実だ。
 価値観は時代によって変化する。「緑」の大切さが切実に語られ始められた今「銭湯の中庭」は都会の生活者にとって、ひと時の豊かな時間をもたらす貴重な遺産と言えるかもしれない。

【DATA】とうきょうよくじょう
住所:品川区大井2-22-16
電話:03-3771-4959
営業時間:15:00~23:30
休業日:月曜日
交通:京急東北線[大井町駅]より徒歩7分
東京銭湯お遍路マップ:33ページ品川区33番

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日中の中庭は、明るい自然光を浴室にもたらす。カラン前の黒い部分はガラス張りで、池の中をのぞく事ができる。

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脱衣室側にも立派な庭があり、池には鯉が泳ぐ。

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浴室略平面図。男女浴室の中央に中庭が配置されている。
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by space88 | 2010-04-01 16:35 | ★1010/個性派銭湯セレクション

東京都内の銭湯や温泉を中心とした、建築士:今井健太郎の風呂日記。雑誌1010掲載エッセイのバックナンバーもこちらでご覧頂けます。


by space88
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