カテゴリ:★1010/東京銭湯物語( 5 )

富士の湯(目黒区)

★ひろびろ店内の銭湯空間。浴室のレイアウトは一見の価値有り!★(1010誌 96号掲載バックナンバー)

 駅前整備により、東口と西口が地上でつながりアクセスが改善され、さらなる活性化が期待される武蔵小山駅。「日本一大きな商店街」という触込みの武蔵小山商店街もある。その武蔵小山駅西口から徒歩8分ほどの、住宅街に富士の湯は位置している。外観は昔ながらの瓦屋根の銭湯を改修した様子で、増築部分と思われる平入形式の入口となっている。手前に張り出した松の木の枝ぶりもよく、内部に坪庭の存在を連想させる。一体どんな内部空間になっているのかという期待感とともに、店内を訪れた。
 取材に応じていただいたのは店主の高原賢司さん。富山県の血縁筋からこの店を引き継いだのが昭和40年台はじめ。当時から現在の建物の基本構造体(木造)は変っていないというが、とても築40年以上とは思えないほど、しっかりとした造りが維持されていることに驚く。店内は8軒の間口に奥行きもたっぷりの、大きな空間容積だ。
 まずは、かなり個性的な浴槽空間のレイアウトに驚かされる。そして対面ソファの休憩エリアがしつらえられた広々とした脱衣室。男女各々、池のある坪庭が望めるのもうれしい。サウナ室もあるし、フロント形式にもなっている。近代的設備が様々に付加されているのだが、改修銭湯にありがちな空間が狭いという印象が無い。その理由は、昔ながらの広々とした銭湯のつくりをそのままに、既存部分の外側に増築する形で改修部分を付加した造りだからであろう。(通常木造銭湯が近代的に改修される際、既存の内部空間を削ってフロントやサウナ室に充てたり、坪庭をコインランドリーにしたりする事が多い)
 細かな事にはこだわらない、おおらかな印象の店主さんだが、とにかく掃除と浴槽の水質管理にはこだわっているという。てきぱきと息子さんとともに開店準備に動き回るその姿は72才とは思えない若さである。お客さんは常連の近隣高齢者が中心ということだが、是非若い方にも利用してみてもらいたい銭湯だ。関西型にも関東型にも分類しえない浴室レイアウトは一見の価値有り!

【DATA】ふじのゆ
住所:目黒区目黒本町5-21-2
電話:03-3712-4125
営業時間:15:00~24:00
休業日:月曜日
交通:東急目黒線[武蔵小山駅]より徒歩6分

写真(01)立派な松の木が目を引く外観。
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写真(02)中央にカランポストが無いスッキリ浴室。
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写真(03)高窓と照明の光が印象的。
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写真(04)シャワーブースが3つ、打たせ湯もある。
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写真(05)高い天井の脱衣室(女)。
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写真(06)坪庭に視線が連続する脱衣室(男)。
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写真(07)きちんと手入れされた、脱衣室界壁上の大黒様。
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by space88 | 2009-02-09 10:18 | ★1010/東京銭湯物語

大黒湯(中野区)

★面白浴室空間発見!サウナ室が宙に浮かぶお風呂屋さん★(1010誌 94号掲載バックナンバー)

 「ちょっと古い写真を持ってきますよ」取材冒頭に見せていただいたこの写真、大黒湯創業当初(昭和7年)のものだという。戦前の貴重な写真。辺りに高い建物はなく、煙突がランドマークとなってそびえ立つこの地の風景。右手に立つのが創業者の大江久蔵さん、幼年時代の2代目久也さんをはさみ、奥様のふささんが中央に立っている。写真に写る外観からは、浴室が高窓型の構造形式となっていることがうかがえる。しかし屋根の形状は単純な切妻屋根で構成されており、反り(そり)や入母屋(いりもや)の特徴を持つ=寺社型のファサード(入口正面外観)ではないことが予想される。いわゆる東京型レトロ銭湯のプロトタイプと言ったところか。
 お話をうかがったのは、上記写真に写る久也さんの息子さん、3代目の久三(ひさみ)さん。写真の木造銭湯は戦災を免れ、昭和の終わりまで中普請を繰り返しながら50年以上存続していたという。そして平成元年に、ビル型銭湯として現在の店舗に生まれ変わった。以降、中普請などの工事はしていない。
 早速浴室に案内されると、一風変わった浴室のレイアウトに目が奪われる。正面の壁から片持ちで張出しているのは、なんとサウナ室。水風呂を含め別料金のエリアが中2階に
振り分けられている。ここにアプローチするには、浴室内の階段を使う。浴槽も中央に張出している珍しいレイアウト。それでいてカランの数はしっかりと20以上ある。撮影時、どの角度からファインダーをのぞいても面白く見え、浴室内を移動する度にワクワク感が生まれる。「他に無い銭湯を創りたい」という久三さんの思いが込められた空間だ。
 「なんとかこの銭湯を存続させる」というのが一番の思いと語る久三さん。聞けば、既に独立された息子さん夫婦に近くお子さんが授かる予定だという。大黒湯としては5代目にあたるお子さん。写真とお話を通じてではあるが、5世代にわたる歴史をお聞かせいただき感慨ひとしお。大黒湯の看板、是非5代目まで引き継いでいただきたいものだ。

【DATA】
住所:だいこくゆ
電話:03-3381-9690
営業時間:15:00~25:00
休業日:曜日
交通:東京メトロ丸ノ内線[新中野駅]より徒歩3分


写真(00)昭和初期の貴重な写真。
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写真(01)緑が心地よく手入れされた外観。
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写真(02)広めのロビーでゆったりと休憩。
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写真(03)正面の壁から張出しているのはサウナ室。
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写真(04)こんな視点から空間を観る銭湯、なかなか無い。
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写真(05)フロントに立つ3代目店主、久三さん。
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by space88 | 2008-10-09 10:11 | ★1010/東京銭湯物語

丸正浴場(世田谷区)

★23区内でたぬきや蛇が出る?ゆったりとした空気が流れる環境の丸正浴場★(1010誌 93号掲載バックナンバー)

 世田谷区、喜多見。銭湯マップで確認してみると、この銭湯1軒のための別枠地図がレイアウトされている。「たぬきや蛇が出てくる事も珍しくないですよ。でも最近はあまりカエルを見かけなくなりましたね〜」という奥様の話。23区の最南西で狛江市との隣接地。小田急線の成城学園駅隣、喜多見駅から10分ほど歩く。世田谷通りを越えたあたりから緑が多くなり、樹齢の高そうな立派な木が目立ち始める。小さな畑も所々に見られる。そんな区内らしからぬ、非常にゆったりとした空気が流れるエリアに丸正浴場は位置している。
 創業は昭和42年。銭湯最盛期のこの当時、先代がなんと60才で新規開業。店名は今は亡きご長男の名前にちなんで命名された。周囲にはその浴場名を冠した小さな商店街があった。現在でもそのうちの数店が残っており、集客数が多かった当時をしのばせる。建物はその後、平成元年に中普請をしてフロント形式となり、現在に至っている。
 お店を支えているのは、御主人と奥様、そしてお姉様と番頭さんの4人。こだわりは薪で沸かした柔らかいお湯と、ぬくもりのある桧の桶。毎日専用の桶洗い機で手入れされている、ありがたい備品だ。また水風呂の浴槽には美肌効果のある黒湯が使われている。
 お客さんは、学生さんと高齢者、そして地域がらか植木の職人さんなどが多いという。高齢のお客さんにとって「銭湯は天国」であり、大切なコミュニケーションの場でもある。中には「今日は風邪でお風呂には行かないけど、他の人に心配しないように伝えておいてほしい」というような電話をかけてくるお客さんもいるという。銭湯がコミュニケーション施設としてリアルに機能していることを実感する話だ。「そんなお客さん達のためにも、続けられるところまでこの店を存続させたい。」と語る御主人。趣味は伝統芸能の神楽。なるほど、銭湯そして神楽。今後、希少となってしまうであろう日本文化のために、公私とものご活躍を期待しつつ、お店をあとにした。

【DATA】まるしょうよくじょう
住所:世田谷区喜多見4-36-16
電話:03-3417-6804
営業時間:15:00~23:00
休業日:水曜日
交通:小田急線[喜多見駅]より徒歩10分

写真(a)モザイクチップのタイル絵が印象的。
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写真(b)木の桶は、暖かい感触で音も心地よい。
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写真(c)海の中をモチーフにした色彩がかわいらしい。
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写真(d)開店直後、明るいうちから店はにぎわう。
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写真(e)フロント担当、笑顔が若々しい女将。
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写真(f)ロビーわきの小庭に、ゆとりと癒しを感じる。
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写真(g)天井の高い、ベーシックな東京型銭湯空間。
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by space88 | 2008-08-20 10:06 | ★1010/東京銭湯物語

帝国湯(台東区)

★ビル銭湯なのに番台。下町の人情が待ってます。★(1010誌 92号掲載バックナンバー)

 歩道がある大通りに面する銭湯、というのは案外珍しくて新鮮だ。周囲は新しいオフィスビルが林立し、通りはサラリーマンが行き交う一方で、そのすぐ裏手には佐竹商店街、おかず横町などといった古くからの町並みも生き残っている。それなりに商店街も機能している様子。
 そんな町並みの二面性が色濃い、御徒町〜浅草橋周辺エリアに建つ帝国湯。蔵前通りに面してシャープなファサード(面構え)を持つビル型銭湯だ。裏手にまわってみると、ご主人の小野寺正志さんがなにやら忙しそうに立ち回っていた。ひと言ふた言コトバを交わす。と、すぐに下町オーラ全開のトークに引き込まれる。出で立ちもユニーク、なぜか少しホッとする。
 帝国湯の創業は、大正時代にさかのぼる。当時は別の経営者が営業していたが、昭和15年前後に先々代が店名そのままに買い受け、戦災をまぬがれて今日まで引き継がれている。現在のビル型に改築されたのは昭和56年。昨年の大クリーニングで、築27年ものビルには見えないほどの外観に戻った。店内は外観とは対照的に番台形式のオーソドックスなスタイル。配管をオールステンレスにしたため、その後の大がかりな中普請もしていない。
 ご主人にお店の特徴をうかがうと「熱いお湯くらいしかないよ」という言葉が返ってきた。しかしいろいろと話をするうちに、このご主人のキャラが一番の特徴かな?と思えてくる。何しろ話しやすいし、面倒見が良さそう。友達付き合いとなっていくお客さんも多く、清掃や釜番まで手伝ってくれることもあるという。店内に飾られている朝青龍&白鳳の手形、そして店名の木彫看板もお客さんからのプレゼント。訪れた業者さんとは話込み、番台でもお客さんとのやりとりが絶えない。オモテの喧騒とは一転、帝国湯には「熱い湯」と「人情」があふれている。

【DATA】ていこくゆ
住所:台東区浅草橋5-23-6
電話:03-3851-2785
営業時間:15:00~23:00
休業日:月曜日
交通:JR総武線[浅草橋駅]より徒歩6分

写真(a)新築同様にクリーニングされた外観。
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写真(b)浴槽の背景は一面の大きなタイル絵。
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写真(c)番台に座る奥様。朝青龍と白鳳の手形もある!
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写真(d)熱いお湯が常に浴槽からあふれている。
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by space88 | 2008-06-17 09:46 | ★1010/東京銭湯物語

あやめ風呂(大田区)

★シンプルで清潔感たっぷり エコの先取りビル銭湯★(1010誌 91号掲載バックナンバー)

 大田区は平和島駅から歩くこと約5分。レトロ風情残る入三商店街近くにある「あやめ湯」はビルの1階に位置する。暖簾も煙突も無いため外観から一見では銭湯に見えにくいが、入口に立つと、創業時から伝わるという彫出し文字の木看板が目を引く。温かく出迎えてくれたのは、三代目若旦那のMTさん。少し珍しめの店名は、創業者の先代が、とある伊豆旅館の「あやめ風呂」という風呂がお気に入りで、それにちなんだことに由来するそうだ。
 その創業は昭和26年にさかのぼり、現在のビル型銭湯に生まれ変わったのは昭和57年。給湯方式は、すぐ裏手が中学校であるため、煙突レスのヒートポンプを採用した。簡単に言うと深夜電力を利用し冷媒=CO2を膨張・圧縮させながら大気の熱を取り込み、湯を沸かして貯湯する仕組みで、エネルギー利用効率が良い。これはある意味エコ型設備の先取りと言える。お客さんから見ての良い点はというと、お湯が柔らかいということ。銭湯をよく利用する人なら、肌触りの違いが解るかもしれない。
 さて、ひととおりお話をうかがい脱衣室〜浴室を見ると、横幅(間口)も奥行きもゆったり目の空間が広がっている。ビル型の銭湯としてはかなり天井も高い。タイルや壁の色使いが少し独特で、不思議な雰囲気がある。清掃もきちんとされている。目に付いたのは、所々におかれている生け花。聞けば、奥様が日々手をかけ担当されているという。その心は「お客様に季節の変化や、小さな命の喜びを感じてもらうのも、癒しのひとつだと思って」というもの。生けた人の心が伝わってくるような、小作品。
 全体としては、スッキリとしたシンプルな空間に、飾られている日本画作品や生け花、あるいは木の看板などが、アクセントとして温かみを与えている、清潔感のある銭湯だ。経営するご家族の人がらも、きっとお客さんの心に温かなアクセントとなっていることだろう。

【DATA】あやめぶろ
住所:大田区大森北
電話:03-3761-8650
営業時間:15:30~24:00
休業日:土曜日
交通:京急電鉄京浜急行線[平和島駅]より徒歩5分

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by space88 | 2008-05-11 23:22 | ★1010/東京銭湯物語

東京都内の銭湯や温泉を中心とした、建築士:今井健太郎の風呂日記。雑誌1010掲載エッセイのバックナンバーもこちらでご覧頂けます。


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