個性派銭湯セレクション その十五 台東区_鶴の湯
2012年 01月 21日
「昔ながらの銭湯の間取りと造り」をそのままビルインさせた銭湯。鶴の湯を端的に表現するとそういう事になる。外観から見るとビルの下階が銭湯になっているだけなのだが、店内に入ると(高窓形式ではない事以外は)昔ながらの木造銭湯そのままの造りが色濃く残る銭湯だ。
現在のビルは昭和52年竣工だから、築34年を経過したという事になるが、それ以上の風格と歴史的雰囲気を感じてしまうのはなぜなのか?オーナーの川端弥太郎さんにお話をうかがい、その訳を知る事になった。
鶴の湯の内装では床材や、番台、化粧梁材、化粧柱材、建具など、そこかしこに高い品質の木材がふんだんに使われている。実はこれら現在の内装に使用されている木材のほとんどが、建て替え前の木造銭湯で使用されていた木材の再生利用品なのだ。前代の木造銭湯は関東大震災(昭和10年)後に建てられているので、これら再生利用の内装材は、おおよそ75年の時を刻んでいる計算となる。ビル銭湯なのに、不思議な風情と味わいがあるのはそういう訳かと納得。感動と感慨を覚えるオーナーからのお話であった。
銭湯の文化とは、生活の中で使われながら育まれる「生活文化」であり、その様態は時代によって変化し続けていく。いわば現在進行形の文化であり、その意味で鶴の湯は時代に同調しながら「銭湯の歴史」を伝えていきた、生きた美術館といえるかもしれない。伝統的銭湯を後世に残していく一つの方法論がここにある。
【DATA】つるのゆ
住所:台東区東上野5-22-7
電話:03-3845-0268
営業時間:15:00~24:30
休業日:月曜日
交通:東京メトロ銀座線[稲荷町駅]より徒歩5分
東京銭湯ぶらり湯めぐりマップ:19ページ32番
内装材として木がふんだんに使用されている。30年以上前に建築素材の再生利用というコンセプトで店造りをしていたということに、オーナーの先見性を感じる。
番台の歴史は内装材の中でも一番古い。昭和3年に造られたというから、83年もの間使われ続けられている。番台に座る女将さんがいつも着物姿というのも鶴の湯の魅力のひとつ。
外観の様子。半階分の階段を上がり、のれんをくぐる。のれんから先は昔ながらの銭湯の間取りとなる。
ふんだんに木素材が使われている脱衣室。ただ古いだけでなく、手入れもきちんと行き届いる現役感。木の桶も嬉しい。